俳優

魅力を生む、相似と相違のバランス。

タカ&ユージというバディの活躍を描いた伝説の刑事ドラマ 「あぶない刑事」。38年の歴史を持つ大ヒットシリーズの最新作、映画「帰ってきた あぶない刑事」が2024年5月24日より公開となる。同作の魅力の一つと言えるのが、鷹山敏樹役を演じる俳優・舘ひろしが放つ圧倒的なオーラ。映画の見どころと合わせて、洒脱に生きる大人の心得、その魅力の真相に迫った。

01

僕の中では俳優として演じるのではなく、
みんなと映画を作っているという感覚が常にありました。

――ドラマ「あぶない刑事」の初回放送から38年の時を経て、シリーズ最新作が公開となります。率直な思いを聞かせてください。

 8年前の映画「さらば あぶない刑事」で完結したとばかり思っていたので、「もう一度やりましょう」とお誘いいただいた時は何より嬉しかったですね。最初に思ったのは、また恭サマ(柴田恭兵)と一緒にやれるのか、ということ。その次に浮かんだのは、アクションに体が耐えられるか。それが心配でした(笑)。

――相棒のユージ(柴田)ほか、薫(浅野温子)、透(仲村トオル)らいつもの面々も登場します。軽妙洒脱なやり取りは今作でも健在ですか?

 良いのか悪いのか、まったく変わりなしです(笑)。恭サマとは会った瞬間からタカとユージになれるんです。薫も透も、現場で顔を合わせてそのままスッと38年前にタイムスリップした感覚になりました。
 とはいえ、実は恭サマ とは8年前の前作以来、顔を合わせていないんです。僕は彼のプライベートを知らないので、いつも新鮮な気持ちで現場に臨むことができています。それは今に始まったことではなく、ドラマを撮っていた時からずっと続いてきたことでもありました。この距離感がタカとユージであり続ける秘訣なのかな、と思いますね。

――お二人の距離感が同作の独特なオリジナリティを生む要素に繋がっているということでしょうか。

 恭サマと僕が並んで立っていると、似ているように見えるんです。でも実際は良い距離感を保ちながら、とても離れた場所にいるんじゃないかと感じることもある。感性にしろ、芝居にしろ、僕たちはまるで四角いフィールドの対角で向き合っているような関係に思えるからです。その相似と相違のバランス、そこが面白さを生む要素になっているのかもしれません。

02

僕の信条は明るく楽しく、みんなで笑って撮るということ。
そうじゃないといいものは作れない

――「あぶない刑事」は長きに渡りファンの心を掴み、まさに刑事ドラマのレジェンドと言えます。そうした継続の秘訣はどこにあると思いますか?

 監督の村川透さんは「くだらないことを一所懸命にやる、これぞあぶ刑事精神」と言っていました(笑)。だから僕たちは初回放送から変わらず、どのシーンでも役者スタッフ一丸となって全力で撮影してきました。それが秘訣と言えば、そうなのかもしれないですね。
 例えば劇中、恭サマが走るシーンがあるんです。70歳を過ぎた元刑事の役ですからスピードも落ちているし、若さという名のキレはなくなっている。でもそんな恭サマが全力で走るわけです。そんな真っ直ぐな姿勢はスタートからずっと変わらないし、そこがカッコいいなと傍で見ていて改めて思いました。間違いなく作品の名場面の一つでしょう。
また「あぶ刑事」と言えば、横浜が代名詞の一つです。今作でも横浜の街並みを活かした映像がふんだんに盛り込まれています。ファンの皆さんにとっても見どころの一つになるのではないでしょうか。

――ゲストには早乙女太一さんほか、新たなキャストも多数加わっています。共演されての印象を教えてください。

 僕らが追う横浜にカジノ誘致を企む組織のボスを早乙女くんが演じていますが、本当に魅力的な俳優でした。細くてしなやかで、抜け目がないんです。このシリーズでは昔からそういう犯人像を追いかけてきた印象もありますし、彼の雰囲気が作品にすごくマッチしているなと感じました。
そして物語の終盤で、僕と彼の対決シーンがあります。もともと最初の台本にはなかったのですが、彼があまりにも魅力的なので付け足してもらいました。ぜひ観てほしいシーンの一つですね。

――ここからは舘さんの仕事観についてもお伺いできればと思います。芸能界へのデビューは1975年になりますが、その頃と現在で大きく変化したと感じることはありますか?

 僕はそもそもバイクチームを辞めてから建築家になろうと思っていたんです。なので芸能界に入ってはみたものの、初めは演技や芝居に対して熱を傾けることはできていませんでした。朝が早い撮影もセリフ覚えも、僕にとっては嫌なことばかりだったんです(笑)。
 自分が俳優に向いているなんて思ったことは一度もありませんでした。でも気づけば映画に出させていただくようになり、レコードを出してドラマにも出演して、全てが僕の意思とは逆方向に進んでいったような気がします。
 その中で、「作る」という作業に夢中になっていく自分がいました。映画も音楽も「作る」のは好きなんです。だからこそ映画を撮っていたとしても、僕の中では俳優として演じるのではなく、みんなと映画を作っているという感覚が常にありました。これがデビューから変わらない、僕の俳優としての仕事への向き合い方なんです。

――「作る」ことに夢中になる中で、何より大切にしていることがあれば教えてください。

 現場は楽しく、ということでしょう。僕にとって現場はすごく大切だから、楽しくなるような雰囲気を作ることも大切なんです。昔は怒号が飛び交うような緊張感のある現場も多かったですが、ギスギスしたのは苦手でしたし、そういう空気は画面から出てしまうと思うんです。だから僕の信条は明るく楽しく、みんなで笑って撮るということ。そうじゃないといいものは作れないと思っています。
 そもそも僕は役柄に没頭するタイプではなく、自分の演技よりも現場の空気と作品の完成度の方が気になってしまうタイプ。つまり現場に立っていても、俳優としてやっているという意識はそこまで強くないかもしれません。それよりもチームをまとめる座長としての立ち位置が僕の仕事のような気がしています。演者と話すよりもスタッフと話している時間の方が長いくらいです(笑)。

――舘さんは座長であるだけでなく、「かっこいい大人の男」のアイコンであることも魅力の一つです。舘さんの思う大人のかっこよさとは、どんなものでしょうか。

 そうだな……(笑)、自由に生きていること、そして若い人をちゃんとリスペクトできることかな。僕は若い頃、結構反抗的で上の世代から「今時の若い奴は」って散々叩かれたんですよ。その時の僕は「わかってねぇな、爺さん」と思っていました(笑)。上から押さえつけられる若い人の気持ちはよくわかります。そんな自分だからこそ、素直に若い人を認められる大人でありたい。最後に男である以上、「紳士であること」だと僕は思っています。

俳優

Hiroshi Tachi

1950年生まれ。愛知県出身。1975年、ロックバンド「クールス」のボーカルとしてレコードデビュー。 その後、歌手、俳優として活躍。映画、テレビの主題歌ほか楽曲を多数発表し、俳優としても映画「暴力教室」デビュー以降、「西部警察」シリーズ、「あぶない刑事」シリーズ等、多数のヒット作に出演する。

※本稿は2024年5月掲載時点の情報となります。

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