2024-11-30
世界遺産で足るを知る。【オランダ キンデルダイクの風車群】
オランダ南ホランド州、第二の都市であるロッテルダムの南東に位置する村キンデルダイクには、19基の風車が運河沿いに佇む。300年前に作られたこの風車群は1997年「キンデルダイク=エルスハウトの風車網」としてユネスコの世界遺産に登録された。海抜が低い湿地帯という、地理的な必要性があり作られた風車群だが、現在では古き良きオランダの一面をのぞかせる場所として年間数十万人が訪れる。

オランダでも稀有な風車群
国土の約4分の1が海抜0m以下の低地であるオランダは、常に水害に悩まされてきた。そうした危機を救ったのが風車の存在である。オランダの人々は、製粉用だった風車を排水用に改良。1740年頃から運河の排水システムとして活用を始めたのだという。水路に立ち並ぶ水車は、1枚の羽根の大きさが約14mm、全体の高さは4、5階建てのビルに相当する。排水により広がった土地は農地として活用された。
技術の発達とともに水車の多くはその役目を終えたが、キンデルダイクの水車群は国定記念物として名を刻むこととなり、地域全体が村の景観として保護されてきた。1997年には水車の技術力や文化・伝統、景観などが評価され、世界遺産に登録されたのである。最盛期にはオランダ全土で1万基を数えたという風車は、現在も水路に沿いに19基立ち並び、その景観を美しく保っている。
歴史を伝える新たな役目
排水機能としての役目を終えた今、キンデルダイクの水車群は博物館として技術を人々に伝える役目を担ってきた。19基の水車の中で、博物館として一般公開されているのは2か所となる。1738年に建てられた「ネーデルワールト ミュージアム ミル」は、今でも製粉所として稼働していた当時の姿を目にすることができる。
もう1つの博物館「ブロックヴェール ミュージアム ミル」は他の風車よりも1世紀以上古い1630年に建設されたもの。ツアー客は1950年代の生活が体験できるほか、水車群のエリア内にはかつて水車群から排水を引き継いだポンプ場も残されており、蒸気エンジンのスケールモデルや古い鍛冶場などが再現されている。

風車群をめぐる水上ツアー
キンデルダイクで忘れずに体験したいのが各種の水上アクティビティだろう。運河には「クルーザー」「ホッパー」2種類の遊覧船が就航しており、観光客は風車の景観を眺めながら、ゆったりとした時間に浸ることができる。冒険気分を楽しみたいのであれば、運河を辿るカヤックもお勧めだ。運河に浮かべられた「はしけ」では、水資源についての映画も上映しており、風車群散策の途中で立ち寄りたい。
ほかにもキンデルダイクでは、すべての風車がライトアップされるイベント「イルミネーション ウィーク」が開催されている。イベントに合わせた夜間クルーズでは、光り輝く風車の中を進む一味違ったクルーズを満喫できるだろう。
風車の下に泊まる体験も
キンデルダイクとその周辺は、オランダの文化と自然が溢れる場所だ。周囲にはキャンプ場やホテル、ゲストハウス、ベッド&ブレックファストなど多彩な宿泊施設が隣接。古い製粉工場を改装したブティックホテル「ヤン ファン アーケル」では、ボートが行き交うメルヴェデ運河の美しい景色を眺めながら、風車の下で過ごす体験もできる。また、キンデルダイクのエリア内にはカフェやレストランも点在しているので、好みに合わせて旅程をチョイスしてみるのもいいだろう。
絵葉書の風景へ、のんびりとした旅路を
キンデルダイク風車群にて、青空のもと風車が佇む田園風景を楽しむのであれば、緑が広がる7月・8月がベストシーズンと言える。日本からキンデルダイクまでは成田からアムステルダムへ行き、列車に乗り継いで近隣のロッテルダムまで15時間ほどの長旅。そこから車やバスでのアクセスも可能だが、水上バスで現地まで向かう旅行者も多いという。絵葉書になるような風車の絶景をぜひ一度見届けてみてはいかがだろうか。
