2023-12-22
世界の名建築を訪ねて。【STATE LIBRARY OF VICTORIA(ビクトリア州立図書館)】
オーストラリアで2番目に大きな都市メルボルンの中心部に佇む、STATE LIBRARY OF VICTORIA(ビクトリア州立図書館)。「死ぬまでに一度は訪れたい図書館」として名前が挙がり、世界中から多くの人が訪れているオーストラリア最古の図書館だ。古代ギリシャの神殿を思わせる重厚な石柱で作られたエントランス周辺には芝生が敷き詰められ、市民が思い思いに過ごす憩いの場所となっている。その傍には地面に描かれたチェス盤と巨大な駒があり、盤上の上を歩いて駒を移動させるユニークな試みも。そんなビクトリア州立図書館が創立されたのは、1856年に遡る。ゴールドラッシュに沸き、多くの移民が入って来た時代だ。ビクトリア州では、経済の発展と共に市民が教養を身に付け、知へアクセスできる場所が求められていたという。創立を決定したのは州の最高裁判所判事を務めたレッドモンド・バリー。彼を中心に地元の指導者や知識人たちが図書館の創設を後押ししたと言われている。
設計を務めたのはイギリス出身の建築家、ジョセフ・リードだ。古代ギリシャと古代ローマの建築に注目し、古代神殿の建築デザインを用いることで、図書館の重要性と尊厳を強調している。その後、約2年の建築工事を経て開館に至った。
1日5000人以上を迎えるという2階のエントランスから奥へ進むと、インフォメーションセンターや雑誌・新聞閲覧コーナー、さらにリーズナブルな価格でドリンクや食事、お酒まで楽しめるカフェや子どもの憩いのコーナーが併設されている。大理石の階段で中2階に上ると、2004年に改装された「レドモンド・バリー閲覧室」が待ち受ける。ここは1899年から1997年まで、およそ100年あまり国立博物館として使用されていた図書館の主要な研究・閲覧スペースの一つであり、天窓のあるギャラリーの天井が特徴の美しい場所でもある。
さらに3階にあるのが、この図書館の一番の見どころともいうべき「ラ・トローブ閲覧室」。最上階の6階まで吹き抜けとなっている圧巻の空間で、ドーム状の天井からは自然光が降り注ぎ、開放的な雰囲気となっている。美しい白壁に囲まれた八角形のこのエリアには、放射状に長い閲覧机が設けられ、訪れる人が資料を置いて研究や読書に励んでいる姿が多く見受けられるだろう。長い時を刻んできたデスクやチェア、卓上の電灯も芸術作品のような趣があり、座るだけで歴史の一部になったような気分に浸ることができる。やはりここにもチェス盤がいくつか用意されているデスクがあり、いかに地元民にとってチェスが生活の一部であったのかという文化の側面を垣間見ることもできるだろう。
また、200万冊以上の蔵書数を誇り、知へのアクセスの拠点となっているこの図書館は、文化を育む多様な顔を持ち合わせている。例えばシアターでは音楽や映画を楽しむことができ、広いワーキングスペースでは窓から図書館の芝生の美しい景色を眺め、コーヒーを飲みながら仕事をしたり、仲間と共同作業したりする機会を持つ場としても活用できる。音楽制作等ができるスタジオもレンタル可能だ。
そのほか、歴史的図書館というロケーションを存分に活かし、盛大な結婚式を挙げることもできるという。華やかなカクテルパーティーや披露宴、著名な企業イベントに適した美しい部屋も設けられているのだ。白い天井と寄木細工の床が輝きを放つ伝統的なスタイルの部屋には、大きな窓から自然光が差し込み、晴れの日を温かく包み込んでくれるに違いない。
ビクトリア州立図書館は長い歴史の中で、多くの改修工事を経てきた建造物でもある。現在も定期的な改修工事を都度実施しており、時代に合わせたアップグレードを繰り返してきた。美しい伝統の面影を残しながら、常に進化し続けるビクトリア州立図書館。心から満たされる体験を約束してくれる、希少な名建築と言えるだろう。